こんにちは。アトリエKW 代表の 渡邉響子です。
西洋美術・絵画史を紹介するコーナー。主に画家の生涯、作風に焦点を当てて紹介しています。
第四回目の今回は、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール です。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥールは、1593年、現フランス領のロレーヌ地方で17世紀前半に活動した画家です。
キアロスクーロ(光と陰)を用いた「夜の画家」と呼ばれます。
夜の画家と言われる所以
まずはこの絵をごらんください。

このなんとも落ち着いた夜の情景。画面のほとんどは闇に包まれ、ろうそくの炎で照らされているところだけがぼんやり明るく照らされている。
光と陰をダイナミックに、なおかつ静かな情景に使うラ・トゥール。
これが「夜の画家」と言われる所以です。
おや?光と陰といえば、前回の登場した 荒くれもののカラヴァッジオ。
そうなんです。このラ・トゥールもカラヴァッジオの影響を大きく受けたバロック期の画家です。
この絵をごらんください。

これは、ラ・トゥール作の「いかさま師」という絵ですが、前回のカラヴァッジオの絵にも似たようなのがありましたよね?
あれ?覚えてないですか?
これです。

どうやら、ラ・トゥールは、このカラヴァッジオの絵から着想して描いたようなのです。
「ようなのです」というなんかハッキリしてない書きかたですが、ラ・トゥールに関しては詳しい伝記が残っていないらしいのです。
生前、1639年には国王ルイ13世から「国王付画家」の称号を得ているという記録はあるようですが、幼少期、修業時代などの詳しいことは記録が残っていません。
1652年、伝染病(当時ヨーロッパ全体で流行していたペストと伝わる)のために妻、そして子供を相次いで失い、本人も後を追うように死去したということが残っているだけで、他はあまり記録がないのです。
実はラ・トゥールは死後、歴史から忘れられていた画家で、再度評価されるようになったのは20世紀に入ってからなのです。
生前、王様専属の画家として活躍したのに?って思いますが、そういうもんなんですね・・・
マグダラのマリア
それにしても、このマグダラのマリア。
私個人的にとても好きな絵です。

静寂の中、静かに悔い改める女性の表情。
ろうそくの炎がドクロに遮られ、はっきりとは見えないのですが、照らされているものでろうそくがあるんだと分からせる構図。
ちなみに、マグダラのマリアというのは、新約聖書に登場する女性です。
元々は娼婦なのですが、イエス・キリストの導きによって悔い改め、キリストに使える者として登場します。
ほかの画家による絵画にもよく登場するキャラなのですが、ほとんどは香油壷を携えて登場します。
磔刑後のキリストの遺体に塗るための香油を持って墓を訪れたとの聖書の記述に由来しているようです。
娼婦をしていたということもあって、だいたいがグラマラスで妖艶な女性として描かれることが多いですが、このラ・トゥールの絵に登場するマグダラのマリアは、まぁ言ってみれば普通の女性のように描かれています。
現代でもいそうですもんね。間接照明で照らされた落ち着いた部屋で物思いにふけっているような。
それゆえでしょうか。死後忘れ去られて20世紀に入ってから再評価されたというのは。
当時の宗教画に求められていたのは「新約聖書の中の物語を、字が読めない人にもわかるように見せて」「信者を獲得する」ということでした。
ですので特にこのバロック期の宗教画はこれでもか!というくらいド派手な演出がされているものが多いです。
その最たるものはルーベンスの絵でしょうか。
ごちゃごちゃと人が登場する、それこそドラマ絵画がもてはやされる時代です。
そこにきてラ・トゥールのマグダラのマリアは、ごくありふれた感じで、「これでもか!」感はありません。
ですので、いったん世の中から忘れ去られてしまったのかもしれないですね・・・・
いや、でもこの絵、本当に素晴らしいと思いますよ。
世の中が認める・認めないっていうのは、その時代ごとの価値観で変わっていくものなのでしょうが、この絵の素晴らしさが分からなかった世代はちょっと残念な人たちだなぁと思ったりも・・・(^^;
美術史の勉強するといつも思います。
世間が求めるような絵画と自分が追い求める芸術のちょうどバランスの良いところ。
そこを狙わないといつまでたってもうだつのあがらない画家のままなのかなと・・・
いろいろ考えさせされます。