ヨハネス・フェルメール 光と影 絶妙なバランス

ヨハネス・フェルメール 光と影 絶妙なバランス

渡邉 響子

こんにちは。アトリエKW 代表の 渡邉響子です。

西洋美術・絵画史を紹介するコーナー。主に画家の生涯、作風に焦点を当てて紹介しています。

第一回目の今回は、私も個人的に大好きな ヨハネス・フェルメール です。

ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer) は、1632年、ネーデルラント連邦共和国(オランダ)で生まれた画家で、バロック期を代表する画家の1人です。
1632年というと、日本では江戸時代。三代将軍 徳川家光 の時代ですね。西暦で言われるとなんかピンとこないですけれど、江戸時代初期って言われると分かるというのは日本人だからでしょうけど(^^;

「光の魔術師」と呼ばれる画家 フェルメール

バロックというのは、ルネサンス後の芸術様式のことをさしますが、調和・均整を目指すルネサンス様式に対して劇的な流動性、過剰な装飾性を特色とします。
同時代のオランダの画家、ルーベンスの絵などからも、劇的に描かれているのがわかります。
アニメ、フランダースの犬で、ネロが最後に見る絵の作者がルーベンスです。

フェルメールの絵も、光と影の対比がしっかりと描かれているのが特徴です。
特に、みなさんも一度は目にされたことがあるでしょうこの絵。「真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女)」

光の当たった明るいところと、ほほからうなじにかかる影の部分の対比がとても美しく描かれています。
その効果もあって、少女の微笑みにぐっと引き込まれていくのを感じます。
「光の魔術師」と呼ばれるのも納得です。

フェルメールの独特の青 フェルメールブルー

この時代、チューブ入りの絵具というものはなく、粉の顔料を油に溶かして塗っていました。
青いターバンのところの顔料は、当時金と同じくらい高価なラピスラズリという宝石を砕いたものを使っています。
これは「フェルメールブルー」と呼ばれているそうです。
この青と、その補色になる黄色をうまく対比して使うことによって、青をより鮮やかに見せていますね。
青と黄色の対比をうまく使った絵に「牛乳を注ぐ女」もあります。

牛乳を注ぐ女 フェルメール

緻密なところとそうでないところの対比の絶妙さ

この絵、ホントに細かいところ見ていくと、パンや籠の明るいところに、細かな白い点が打たれているのがわかります。
この技法のことを「ポワンティエ」と呼ぶのですが、ホントに細かい点が見れます。
しかしながら絵全体、どこもかしこも緻密に描くことはしていません。
見せ場となるところだけを細かく描くことによって、鑑賞者の目をうまく誘導するという工夫がなされています。
この緻密なところと、ざっくり描いているところのバランスがとても心地よく、見習うべきところだと常々感じています。

だけど切ない最期

こんな素晴らしい絵を残したフェルメールですが、実は生涯で残した作品は30数枚といわれています。
画家としては少ないですよね。
それは、フェルメールの生涯を見ていくとわかってきます。

若いころ絵画を習い、聖ルカ画家組合の親方として活躍しながら、お父さんの居酒屋兼画廊を継ぎます。
要するに二足のわらじで生活していたようです。
毎日毎日絵だけに没頭できたわけでもなさそうです。

しばらくしてカタリーナ・ボルネスという女性と結婚しました。このカタリーナのお母さんがとても裕福な人でした。
また、画家組合としての活躍もありパトロンもついていたので、高価なラピスラズリを絵具の顔料にすることができたようですね。

しかし、存命中に絵が多くの人に評価されることはなかったようです。一定の評価はあるもののなかなか絵が売れない。
またカタリーナとの間に15人(うち4人は夭折した)の子供がいたため、画業だけでは暮らしてはいけなかったようです。

そこにきて1670年代に第3次英蘭戦争が勃発しオランダの国土は荒れ、経済が低迷していきました。
またフェルメールとは違った画風をとる若手画家の台頭によって、彼自身の人気が低迷していき、生活はさらに困窮していきます。

裕福だったカタリーナのお母さんも打撃を受け裕福でなくなり、頼れるところもなくなってしまい、フェルメールは店と家を失います。

大量に負債をかかえ必死で駆け回るも、とうとう首が回らなくなってまいました。
11人の子供とカタリーナを残し、1675年に42歳で死去してしまいます。死因は不明です。

フェルメールの絵がたくさんの人に評価されるようになったのは、彼の死後200年後のことです。

普段の生活の様子を、美しいタッチで絵にしてきたフェルメール。
苦しい生涯とは裏腹の、当時の生活の中での活発な笑い声がきこえてきそうな絵ばかり。
こうして彼の生涯を知ると、また絵の見え方が変わってきますね。